BMW Motorrad R1200GS 2017年式。
私の現在の愛車である。
愛車といってもまだ半年、やっと三千キロを超えたところである。しかしすでに愛車なのである。この意味、分かっていただけるだろうか。
色は一番地味なライトホワイトだ。カタログカラーだ。古くなった時に一番味が出ると思っている。だからこの色にした。
そう、今回は長く乗るつもりで買った。いや、いつもそのつもりだったのかもしれないが、結局は今まで短いスパンで乗りかえてきた。新しい物好きで飽き性なのである。
しかし今回はわけが違う。
BMW Motorrad R1200GS 。
初めて乗った時、最初のカーブを曲がってアクセルを開けた瞬間、惚れた。
その後、半年間乗ってきたが、文句をつけようにも探すのが恐ろしく難しい。
シート高が低くて膝が痛い?足つきが良いのは安心して乗れるから良いではないか。何なら本国仕様やハイシートの設定もある。何より嬉しいのは、Motorrad Japanが日本仕様のシート高を数ある国産アドベンチャーより下げてきたことだ。これにより私にとってはBMWのバイクがとても身近な存在になり、GSアドベンチャー以外なら躊躇なく選べるようになった。
今やBMWのバイクはどの国産メーカーのものよりも安心して乗れるバイクになった。
タンデム+荷物満載が多い私にとっては、足つきはとても重要だ。R1200GS 2017年式の日本仕様のシート高はLow側で800mmだ。Highにすると820mm。そしてサスペンションセッティングは「Dynamic ESA」という電子制御サスが付いているおかげで、ハンドルのボタン操作でプリロードを調整することができる。これを ”AUTO” にしておけば、積載重量や路面状況に応じてセッティングが随時変化する。足つきが不安な場面では ”MIN” 、またハードなオフロード走行の場面では “MAX” を選択すれば地上最低高を確保できるだろう。
長距離移動で大切な乗り心地は、ファーストクラスのそれである。ゴツゴツすることは微塵もなく、どんな場面においても路面の凹凸を的確にいなし、極上の乗り心地を提供する。
またBMW Motorradはパッセンジャーへの配慮も完璧だ。十分な座面と視界の確保。足を乗せるステップにもそれは窺える。
ここは日本とドイツのバイク文化の違いが顕著に現れる部分だ。日本ではパッセンジャーを乗せることは少なく、一人での使用が多い。乗車定員2人となっていても、リアシートにはほぼ実用性はなく、荷物置き場だ。昨今のトレンドデザインであるフェンダーレス化により、リアシートは先細った形になり面積が縮小。しかも前傾しているので、ブレーキングのたびにお尻が前にずれる。クッション性も無く、見ているだけでお尻が痛くなりそうである。ここにあなたの彼女や奥さんを乗せてはいけない。次にツーリングに誘おうものなら「一人でどうぞ」となりかねないからだ。彼女があなたとピッタリくっつきたいというのなら口出しはしないが、奥様をお乗せするならゴールドウイングかFJR1300A(S)をお勧めする。R1200GSのリアシートを占拠しているうちの嫁は、高速走行中何度も”落ちる”というから、これはこれで困ったものだ。
私はR1200GSを選んだ理由を、2つの機能抜きには語れない。
「クルーズコントロール」と「シフトアシストプロ」だ。
どちらも長距離移動で大きな力を発揮してくれる。
高速道路を数百キロ移動するロングツーリングでは、お尻より何より右手が先に逝ってしまう。右手の問題はライダーにとっては大きい。小排気量車になるほど深刻だ。それはオートバイの良さの裏返しであるのだが、右手を離した瞬間に激しい減速が始まるからだ。右手を休ませたいけどこのまま走り続けたい…これを可能にするのがクルーズコントロールだ。
ハンドル左側にあるクルーズコントロールスイッチをONにしておき、任意のスピードになったらスイッチの内側にある小さなレバーをクリックすればセット完了だ。解除するにはブレーキをかけるかクラッチレバーを引けば良い。これは、ほんの少しの入力で解除になる。実に使いやすい。
シフトアシストプロは一言で言うと、顔が”にやけてしまう”機能だ。まさに、レーサー気分。左手のクラッチ操作は必要なし。左足のシフトレバーのみで、人間よりもはるかに正確で素早いシフト操作をしてくれる。シフトダウン時は自動的にブリッピングが行われ、回転数を合わせてくれる。これもロングツーリングで大いに左手の疲労軽減に貢献するだろう。ただ、シフトアップ時において、街乗りやゆったりした流れの時は、ギクシャクしてしまうのでアシストを使わない通常のシフト操作の方がしっくりくる。反対に、アクセルを豪快に開ける時や本気モードの時は、アシストの本領発揮で、一気にスピードに乗せることができるのだ。この辺りはライダーの好みに応じて使い分けをすると良い。もちろん、通常のシフト操作でも十分楽しめることは保証する。クラッチレバーも軽いのでそこまで負担にはならないだろう。
さて、私が一番重視したのは積載性である。なぜなら、普段夫婦でタンデムキャンプツーリングをするからである。これを、結婚した当初は、それまで私がソロで乗っていた600ccのホーネットSでやっていたのだから、大きな進化になった。リアキャリアに板を張ってその上にホムセン箱を載せていた。リアシートが使えないので、ナイロンのサイドバッグもつけていた。まあ、あの頃は比較的最小限の荷物で行っていた。しかしR1200GSなら、タンデムでもそれなりの装備は積めてしまう。それでいてドライバビリティはしっかりしているのだ。
ハードケースは防水性を考えると非常に便利だ。R1200GSで言えば、バリオケース。容量が変えられるので、普段使いできる。アルミサイドケースはアドベンチャーバイクにとってはカッコ良く、また頑丈なのでロングツーリングにはもってこいだが、普段は大きすぎて邪魔になるだろう。
リアのアルミケースはGIVIのTREKKER OUTBACKの小さいほうをつけている。大だとやはり普段使いには大きいし、バイク全体のシルエットを考えると、小の方が似合うと思う。
アルミケースにはまた別の楽しみもある。それは、ツーリングで訪れた場所のステッカーを貼っていくことである。愛車と共に沢山の景色を見てきた証である。貼られたステッカーを見てその時のことを思い出すのはまた楽しいだろう。
ここまでR1200GSの実用的な面ばかり述べてきたが、魅力はもちろんそれだけではない。
BMWのRシリーズといえば、バイク史に燦然とその名を轟かせるフラットツインエンジンの代名詞である。500ccの初代フラットツインが積まれたR32は1923年に発売。それから90年の歴史が刻まれ、2013年ついに1169cc空水冷DOHCとなり、R1200GSに積まれた。
この空水冷フラットツイン、恐ろしくスムーズである。私は直前まで空冷のR1200Rに乗っていたが、空冷はアクセルに対してワンテンポ遅れて、分かりやすく言うと、ゴリゴリ回転が上がるのに対して、この空水冷エンジンはスロットル操作に敏感に反応してヒュンヒュンと軽快に吹け上がる。シフトアシストプロとの組み合わせで、アドベンチャーバイクのイメージとはかけ離れたスポーティーな走りができる。その気になればSSにもついていけるだろうし、サーキットを走っても楽しいかもしれない。
湿式多板になったクラッチは非常に軽く、ストレスなく250kgの車体を発進させることができる。エンジンはウルトラスムーズに吹け上がり、空冷フラットツインの時代にはしばしば”執事”と形容されたが、この従順な”執事”は空水冷になって若返り、ますます能力に磨きをかけ、1mmの意図も見逃さずライダーの意思に即座に反応する。
ツインだと思って侮るなかれ。このバイエルンのサラブレッドが最高の能力を発揮するのは、高回転域である。レッドゾーンが9000rpmからに対して、最高出力125ps/7750rpm、最大トルク125Nm/6500rpmとなっており、高回転型エンジンであることがわかる。ボクサーエンジンゆえ振動は少なく、レッドゾーンまでストレスなく吹け上がる。ゆっくりと流したいときはツインの低めのハーモニーを聴きながら心を癒すのもよし、その気になれば、ベルリンフィルが演奏する終楽章のクライマックスの咆哮の渦に包まれることもできる。
R1200GSはしばしば”デュアルパーパス”と訳されることもあるが、まさにその通りで、苦手なステージが思い浮かばない。さすがに水の中はまだ走ったことはないが、いつ、どんな時でもあらゆるステージを力強く走破する能力を備えており、条件が悪くなるほど頼もしさを増す。
R1200GSの値段は、税込2,430,500円である。これにケースを付けたりマフラーを交換したりすれば、諸費用と合わせて300万円近くしてしまうだろう。バイクで300万円もするというと車が買えてしまうではないかと揶揄されるのが常だが、もし300万円で車を買ったとして世界最高を体験できるのか?と問いたい。これまで述べてきた通り、R1200GSは現在のところ、アドベンチャーバイク、デュアルパーパスバイクとしてこれ以上ないほどの機能と能力を備えている上、バイク本来の面白さや人の内面に訴えかけるものも十分すぎるほど持ち合わせている。まさしく世界トップクラスのバイクであることは間違いない。もちろん同じ300万円でどのような体験をするかは、人それぞれなのは言うまでもない。しかし、どうせなら世界最高を体験してみないか?
Yasu